新たなコーヒーの世界を探求する旅は終わりません。
古代からコーヒー栽培が行われてきたイエメンから、新たなコーヒーの品種「イエメニア」が発見されました。
この記事を読むことでわかることは以下の3つです。
・イエメンコーヒーの味わいの特徴
・イエメニアの特性
・イエメンの歴史や栽培環境
新しい知識を得ることで、コーヒーの味わいをより深く理解し、新たなコーヒー体験を楽しむための一歩となるでしょう。
イエメンってどんな国?
イエメンは中東で唯一のコーヒー生産国です。
中東のアラビア半島南部に位置し、北に紅海、西にアラビア海、南にガルフ・オブ・アデンと海に囲まれています。
首都はサナア。
面積は約527,968平方キロメートル。
日本の面積(約377,975平方キロメートル)のおおよそ1.4倍に相当します。
人口は約3,049万人(2021年時点)で、多くの人々が農業に従事しています。
イエメンは、コーヒーが初めて商業的に栽培され、世界中に輸出された場所として知られています。
そのため、イエメンのコーヒーは「コーヒーの故郷」とも言われています。
栽培されているコーヒーは全てアラビカ種です。
特に、モカ・マタリの最高グレードとされる「No.9」は、「コーヒーの貴婦人」と称されるほどの味わいを持ちます。
イエメンコーヒーの味わいの特徴
イエメンのコーヒーは、ワインを思わせる上品な香りとフルーティな酸味が特徴です。
焙煎度は中煎りまたは深煎りが最適です。
イエメンの4つの銘柄
イエメンの主な銘柄はモカマタリ・アールマッカ・サナニ・イスマイリの4つです。
モカマタリ(Matari)
イエメンで最も有名なコーヒーで、「最も酸味があり、最も複雑で、最も香りが強いイエメン産コーヒー」と評価されています。
アールマッカ(Al-Makha)
モカマタリの中から品質の良い豆だけを選んだもの。
サナニ(Sanani)
イエメンの首都「サナア」のコーヒー豆。
サナニはイエメンの広範な地域を指し、その中にはハラーズ山も含まれます。
イスマイリ(Ismaili)
イスマイリ山地域で栽培されたコーヒー豆を指します。
イエメンのアラビカ品種
これまで、コーヒー豆の伝播ルートをたどるとイエメンに存在する品種はエチオピアの在来品種だと考えられていました。
しかし、2021年に新しいコーヒー品種群「イエメニア」が発見されました。
「新種イエメニア」の発見
「イエメニア」は、300年ぶりの歴史的発見とされる全く新しいコーヒーの母体品種です。
これはティピカ系でもブルボン系でもなく、全く新しい種類のコーヒーで、パナマのゲイシャ品種以来の約15年ぶりの大発見とされています。
アラビカ種の98%以上がイエメンにルーツを持つとされています。
エチオピアの森から発見されたアラビカ種は、少なくとも600年以上前にイエメンに渡り、初めて耕作作物として広がりました。エチオピアの深緑の森から、乾燥地帯であるイエメンに渡ったコーヒーは、自然環境に適応するために自然順化・変異しました。
300年以上の時間を経て、エチオピア原種とは異なる品種に変化し、その後世界に広がった多種多様なアラビカ種となりました。ティピカ種とブルボン種は、300年を経て現在世界各地で栽培されている多様な主要品種(現在100種以上)の母体となっています。
2020年8月14日にACE(Alliance for Coffee Excellence)とQima Coffee、そしてDr. Christophe Montagnon主催によるExclusive会議にて、新たなイエメン固有種「YEMENIA(イエメニア)」が発表されました。
「イエメニア」は、イエメンのコーヒー史だけでなく、世界のコーヒー品種史においても大きな影響を与えるとされています。
発見された母体品種「イエメニア」は、今後更なる新たな品種の起源となる可能性があり、大注目の品種です。
主なコーヒー産地
イエメンのコーヒー主なコーヒー産地は
・バニーマタル地区
・ハラズ地区
の2つです。
バニーマタル(イエメン北部)
バニーマタル地区は、イエメンのサナア県に位置しています。この地区には、ハラジ山脈のサラート山脈に属するジャバル・アン=ナビ・シュアイブまたはジャバル・ハドゥルという山があります。これらの山岳の中腹の段々畑でコーヒー栽培が行なわれています。
標高約1,900〜2,100mの高地に位置しており、その冷涼で湿度の高い気候はコーヒー栽培に適しています。
ハラズ(イエメン北西部)
ハラズ地区はイエメン北西部の高地に位置し、標高は1,700m〜2,240mと幅広く、寒冷な地域です。ハラズ周辺は豊かな火山性土壌で、重要なミネラルを豊富に含んでいます。これらのミネラルはコーヒーツリーの健康的な成長を支え、豊かな風味のコーヒーチェリーを生み出します。
また、認証はされていませんがこのコーヒーは100%オーガニックです。ハラズでのコーヒー栽培は合成肥料や農薬の便利な供給がないため、何百年にもわたって伝統的な方法(手作業)で栽培されています。
コーヒー豆の格付け
イエメンのコーヒー豆の格付けは、それぞれの地域で行われており、共通の基準などはないようです。
バニーマタルではNo.9が最高ランクでNo.6までの等級があります。
しかし、その等級のための条件が曖昧です。
そのため品質に一貫性がなく、最高グレードでも欠点豆の混入やサイズのバラツキが多いです。
主な精製方法はナチュラルプロセス
イエメンのコーヒーは、一般的にナチュラルプロセス(天日乾燥法)で処理されます。
これは、コーヒーチェリーの果肉を豆から取り除かずにそのまま太陽の下で乾燥させる方法です。
このプロセスは、コーヒー豆に果肉の甘みとフルーティーな風味を強く残すため、イエメンのコーヒーはその独特な風味と複雑さで知られています。
また、イエメンは乾燥した気候で、降雨も少ないためナチュラルプロセスが適しています。
イエメンの歴史
1400年頃、イエメンのモカ地域で商業的なコーヒー栽培が始まりました。
コーヒーの原産地はエチオピアですが、商業的な栽培が始まったのはアラビア半島で、特にイエメンが中心でした。
当時、イエメンはオスマン帝国(旧トルコ)の支配下にあり、コーヒーの価値を認識した帝国は、モカからのコーヒー苗木の輸出を禁止しました。
これにより、イエメンは約250年間、コーヒー栽培を独占しました。
その結果、「モカ」はコーヒーの代名詞となりました。
これは500年以上前の話で、その頃からコーヒーは価値のある商品とされていたのです。
東インド会社の設立
1600〜1800年頃、ヨーロッパ各国は香辛料貿易や植民地統治のために東インド会社を設立しました。これらの会社は、貿易だけでなく軍事権も持っていました。
特にイギリスの東インド会社は、アヘン(麻薬)を輸出するなど、ダークな側面も持っていました。
1616年、オランダの東インド会社の船がモカを訪れ、コーヒー豆をアムステルダムに持ち帰りました。
これがイスラム世界からヨーロッパへのコーヒーの輸入の始まりでした。
その後、1600年代後半にはヨーロッパでコーヒーの需要が増え、コーヒーは定期的にオランダに輸入されるようになりました。
そして1658年、オランダ東インド会社はモカからコーヒーの苗木を持ち出すことに成功し、スリランカでの栽培に成功しました。
これにより、コーヒーの栽培はイエメンからアジアへと広がり、18世紀前半にはジャワ島がモカを生産量で上回るようになりました。
そして、コーヒーは新大陸へと広がっていきました。
イエメンのコーヒー産業が抱える問題
2014年から続く内戦は、イエメン全体の経済に大きな影響を与えています。これにより、コーヒーの生産と輸出が困難になり、農家の収入源が失われています。
輸送と輸出の困難
内戦により、コーヒーの輸送ルートが遮断され、輸出が困難になっています。
特に、サヌアからアデンへの主要な輸送ルートは武装勢力の検問所が100箇所近く設置されており、コーヒーの輸送が非常に困難な状況になっています。
これらによりコーヒーの価格が下落し、生産コストが上昇しているため、農家の収入が減少しています。
カートの栽培
輸送と輸出の困難によりコーヒーの栽培は内戦以前よりも利益が出なくなりました。
そのため、コーヒー農地よりも利益がでるカート畑への転換が増えています。
カートとは興奮作用のある植物です。
この植物はイエメン国内で大流行しています。
そのためコーヒーの生産量が減少しています。
まとめ
いかがだったでしょうか?
・イエメンコーヒーの味わいの特徴
・イエメニアの特性
・イエメンの歴史や栽培環境
この3つをお話しさせて頂きました。
コーヒーのポテンシャルと歴史があるイエメンですが、内戦などの影響からコーヒーの生産量が減っています。
コーヒー農家の方々は厳しい環境に置かれています。
一刻も早く平和的な内戦の解決へと向かってもらいたいものです。